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コーチ
10秒運動30秒休息:サントリーラグビーのトレーニングから

前回は、箱根駅伝に関連したお話しをしましたが、今回は、同様に新春の恒例となっているラグビーをとりあげましょう。私が研究指導をしている大学院生に、宝田雄大君という学生がいます。彼は、サントリーラグビー部のフィットネスコーチという肩書きを持っています。3年前、彼がこの仕事を引き受けた時には、サントリーは東日本社会人で最下位でした。そのチームが今年、日本一に輝いたことは、多くの方がご存じの通りです。このような大きな進歩にさまざまな要因が関与していますが、そのひとつに、科学的なトレーニングがあげられます。(石井直方)
スポーツを分析することの重要性
彼はまず、チームの体力レベルを分析し、筋力とパワーについてはほぼ満足できるレベルにあるものの、前後半それぞれ40分間フルに動くための持久力が不足していると判断しました。全身持久力を高めるトレーニング法にはいろいろありますが、ラグビーの動きに直結する持久性が重要と考え、トレーニングプログラムを作成するために、試合を徹底的に分析することから始めました。膨大なビデオ記録の分析や、選手へのアンケート調査などから、試合中の典型的な動きのパターンが、(バックスもフォワードも)10秒間の強い運動と30秒間の休息の繰り返しであることが分かりました。生理学から見ると、10秒間最大能力を発揮する運動をしてしまうと、次の30秒の休息では、エネルギーの補給が間に合いませんので、とても40分間は持ちません。したがって、常に最大下のレベルで運動するか、さもなくば時間経過に伴ってパフォーマンスが徐々に低下していくことになります。そこで、このようなパターンの繰り返し運動での、一定時間の最大能力を引き上げておくことが合理的な戦略となります。このようなアプローチや考え方は、多くの場合見過ごされがちですが、トレーニングの本質のひとつではないかと思います。

10秒運動、30秒休息のインターバルトレーニング
以上のような分析から、10秒急走、30秒休息のリズムで行う、10秒間のインターバルトレーニングが行われました。ただ、ダッシュとジョグを単調に繰り返すだけの、通常のインターバルトレーニングではなく、約15mの距離をダッシュし、急停止して切り返すというシャトルランを中心的な運動としました。後で述べるように、このこともきわめて重要なことになります。 

このように、ほんの10秒間のトレーニングなのですが、全身持久性に及ぼすその効果はきわめて大きく、3ヵ月で、最大酸素摂取量が平均約20%、1500m走のタイムが平均約30秒も向上したのです。エキセントリック動作に対する抵抗力前回、筋が力を出しながら伸張される「エキセントリック」動作によって、強い筋疲労が起こることをお話ししましたが、ラグビーの動作でも「強いステップを切る」、「相手に押される」などの局面で、このような動作が多用されます。したがって、本人があまり意識することなしに、筋のパフォーマンスがどんどん低下していくことになります。このような効果は、試合であれば、さらに、相手が強ければそれだけ大きく現せます。

したがって、急停止から切り返しという、強いエキセントリック動作を繰り返すトレーニングによって、筋疲労に対する抵抗力を高めておくことが重要となってきます。これは、ラグビーに限らず、多くのスポーツでも同様だと思います。

身体組成への効果−ボディビルダーへのヒント
もうひとつ興味深いことは、このトレーニングによって選手の体脂肪率が2~3%減少し、同時に除脂肪体重がやや増加したことでした。以前、生理学上の定説として、脂肪を選択的に落とすためには、低強度のエアロビクスを長時間行う必要があることを述べました。これは、脂肪をエネルギー源として利用するために酸素が必要であること、脂肪細胞から脂肪が分解・遊離される過程がアドレナリンで促進され、逆に血液中の乳酸で阻害されることによります。それでは、比較的短時間のインターバルトレーニングで体脂肪が選択的に減ったのは、なぜでしょうか。おそらく、10秒間の強い運動自体では、血中の乳酸はさほど上昇せず、さらに有酸素能力が十分に高ければ、次の30秒間のエネルギー補給時に多量の酸素が使われるためでしょう。これらの点についてはさらに検討が必要ですが、ボディビルダーの減量のためにも、30秒程度のインターバルでセットを繰り返すようなトレーニングが有用かもしれません。実は私も、現役時代には時間があまりありませんでしたので、減量時にはこのような方法を好んで行っていました。

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