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活性酸素は老化に関係しないか?
最近、「アンチ・エイジング」(「抗加齢」、より的確には「抗老化」)という言葉が目を引くようになりました。「自然科学上最大の問題」のひとつとされてきた「老化」のメカニズムについても研究が進んできており、つい最近では老化を防止する、全く新しいホルモンも発見されています。今年の7月には、老化の主要因が活性酸素であるという「活性酸素説」を否定する研究(Kujothら、Science, 2005)が新聞で紹介されました。運動に関係する人々の中には、これを読んで胸をなでおろした方もあるかと思います。運動は活性酸素を多量に生み出すため、方法や量を誤るとかえって老化を加速すると考えられてきたからです。しかし、上記の研究論文をよく読むと、決して活性酸素と老化の関係を否定しているわけではなく、安心するのは早計であることがわかります。そこで今回は、老化、活性酸素、運動の関係について、最近の知見をもとにまとめてみたいと思います。

【老化とは何か】
老化とは、総体的に見れば、加齢に伴ってさまざまな生理機能が低下することをいいます。もう少し専門的には、1)細胞死の進行、2)内分泌機能、中枢神経系、免疫系の機能低下、3)環境適応能の低下などによって、全身の恒常性が損なわれていくこととされています。これらの1)〜3)の過程がどのようにして起こるかは不明で、遺伝子にそのようにプログラムされているとする説、遺伝子DNAの複製が繰り返されるに従ってエラーが蓄積していくとする説、抗酸化機能の低下による酸化ダメージが原因とする説(活性酸素説)などが提唱されています。

【老化の活性酸素説】
これらの説が主張する過程はいずれも、多かれ少なかれ老化に関与しているものと考えられますが、中でも活性酸素による酸化ダメージは、生活習慣などによって対処できる可能性が高いという観点から、最も注目されてきたといえるでしょう。その実験的根拠としては、1)生体内で生じる活性酸素が遺伝子DNAを傷つけること、2)生体内の抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性が加齢とともに低下すること、3)ヒトのSOD遺伝子をショウジョウバエに組み込むと、ハエの寿命が著しく延伸すること、などがあげられます。

【ミトコンドリアの関わり】
生体内で活性酸素を最も大量につくるのは、ミトコンドリアという細胞内器官です。ミトコンドリアは、酸素を用いてエネルギーを生産する(有酸素性代謝)役割をもち、細胞の核にある遺伝子とは別に、固有の遺伝子(ミトコンドリアDNA)をもっています。ミトコンドリアが有酸素性代謝を行う際には、取り込んだ酸素のうち2〜5%が半ば必然的に活性酸素になることがわかっています。活性酸素説では、こうして作られた活性酸素がミトコンドリアDNAに変異を引き起こし、その結果、有酸素性代謝における活性酸素の生成量がさらに増えるという悪循環を経て、ミトコンドリアの機能不全が起こるとしています(Harman, 1972)。ミトコンドリアの機能不全は、細胞のエネルギー生産に重大な影響を及ぼしますので、細胞本体の機能不全や細胞死につながると考えられます。こうして最近では、哺乳類などの高等動物の老化にはミトコンドリアの機能が深く関わっているとする考えが有力になってきました。

【活性酸素と関係なく起こる老化?】
冒頭にご紹介した Kujothらの研究は、ミトコンドリアDNAに生じる変異と老化の関係をより直接的に調べたものです。彼らは、ミトコンドリアDNAの複製に関わる遺伝子を改変し、DNAの複製時にエラーが起こりやすい組み替えマウスを作りました。このマウスでは、通常のマウスに比べ寿命が半分以下に縮まり、脱毛、筋の萎縮、聴覚の減退、心臓や腎臓の萎縮など、老化に伴う変化が著しく加速されました。このとき、活性酸素による酸化ダメージの程度を、DNA、脂質、タンパク質のそれぞれのレベルで調べると、組み替えマウスでも通常のマウスでもほぼ同じでした。一方、組み替えマウスでは細胞の自殺(アポートシス)を引き起こす酵素の活性が著しく高まっていました。これらのことから、1)老化にはミトコンドリアDNAの異常が関わること、2)ミトコンドリアDNAの異常によって、活性酸素の生成量がさらに増えるとする仮説は誤りであること、3)ミトコンドリアDNAの異常は細胞のアポトーシスを引き起こすこと、などが示されました。これらのうちの3)については、ミトコンドリアの膜の機能が損なわれ、チトクロームc というタンパク質が細胞質中に漏れ出ることが引き金となると考えられています。

【やはり過激な運動は要注意】
Kuothらの研究は、ミトコンドリアDNAの複製にエラーが起こるようにすれば、活性酸素とは無関係に老化が起こりうることを示していますが、老化と活性酸素が全く無関係であることを示しているわけではありません。正常な個体では、むしろ活性酸素によるダメージによってDNAに異常が起こり、それ以降は、組み替えマウスの場合と同様のプロセスによって老化が進行するという可能性も十分に残っています。やはり今のところ、自身の抗酸化機能を大きく超えて酸素を摂取するような、過激な運動には注意する方が賢明だと思います。



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