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「下り坂運動」が糖尿病を予防する
毎年、年末から正月にかけて、スキーに出かけます。私がスキーを始めたのは40年ほど前ですが、今のスキーは専らリフトで登っては滑り降りるという、ずいぶん横着なスポーツになってしまいました。しかし、昨年の米国心臓学会大会でオーストリアの Drexelらが報告した研究結果がきっかけとなり、こうした「下り坂運動」の糖尿病予防効果が注目されてきています。

【下り坂運動が耐糖能を高めた】
Drexelらはスキーリゾートを利用し、普段運動をしていない被検者45名に、2ヶ月間ずつ、2種類の運動をさせました。ひとつは、歩いて山を登り、スキー用のリフトで下りるというもの。もうひとつは、逆に同じ山をリフトで登り、歩いて下りてくるというものです。これらを週3〜5日行わせ、それぞれの2ヶ月の前後で、糖代謝と脂質代謝の変化を調べました。当初彼らは、「上り坂トレーニング」のみに効果があるものと予測していましたが、結果は全く予想外のものだったそうです。血中トリグリセリド(中性脂肪)濃度は、予想どおり「上り坂トレーニング」後にのみ低下しました。しかし、グルコースを摂取したときに血糖値を維持する能力(耐糖能)は、「下り坂トレーニング」後にのみ著しく向上しました。耐糖能は血糖の取り込み能力に関わり、これが低下することがII型糖尿病のはじまりといえますので、「下り坂トレーニング」は糖尿病の予防に効果的なことが示唆されます。

【コンセントリックとエキセントリック】
筋の収縮形態には、筋が短縮しながら力を発揮する短縮性収縮(コンセントリック収縮)と、筋が伸張されながら力を発揮する伸張性収縮(エキセントリック収縮)があります。バーベルを持ち上げるのはコンセントリック、ブレーキをかけながら下ろすのはエキセントリックとなります。山を歩いて下ったり、スキーで滑り降りたりする場合は、全体として見ると、筋をブレーキとして使うのでエキセントリックです。山を下ることは、エネルギー的に見れば、山から一気に飛び降りるのと同じです。ただし、飛び降りた場合には、体が山頂にいるときの位置エネルギーのすべてを着地の瞬間に吸収するため、粉々に壊れてしまいます。歩いて下りれば、このエネルギーを一歩一歩に分散して受け止められます。スキーの場合も同じです。

【エキセントリック収縮の3つの特徴】
筋をブレーキとして使うエキセントリック収縮には、3つの特徴があります。まず、エネルギー消費が少ないこと。上記のように、エキセントリック収縮では、外界からエネルギーを与えられますので、筋としてのエネルギー消費もきわめて小さくなります。この外界から与えられたエネルギーのうち、大部分は筋中の微細構造に吸収されます。そこで、筋の微小な損傷が生じ、その周辺に炎症が起こって遅発性筋痛、いわゆる「筋肉痛」になります。筋の微小損傷と遅発性筋痛を起こしやすい、これが2番目の特徴です。3番目の特徴は、「速筋線維の優先的動員」です。コンセントリック収縮では通常、エネルギー効率のよい遅筋線維から優先的に使われ、負荷が大きくならないと速筋線維は使われません。一方、エキセントリック収縮では、負荷が小さくとも速筋線維から優先的に動員されることが、筋電図解析によって明らかにされています。確かに、筋をブレーキとして使うのであれば収縮の速い速筋線維から使った方がより安全で確実でしょう。

【エネルギー代謝との関連性】
エキセントリック収縮で優先的に使われる速筋線維は、糖を主なエネルギー源とします。したがって、エキセントリック収縮を繰り返すようなタイプのトレーニングを行うことによって速筋線維の肥大や機能向上が起これば、血糖の吸収能も向上することが期待されます。特に、大腿四頭筋や大殿筋のように大きな筋が血糖をよく取り込むようになれば、全身的な耐糖能の改善にも効果的と考えられます。

【短期的には逆効果も】
一方、Sherman ら(1992)は、高強度のエキセントリック運動を1回行った後に、全身の糖代謝がどのように変わるかを調べています。彼らは上記と全く逆の結果を得ており、遅発性筋痛が起こっているような状態では耐糖能が低下すると報告しています。これはおそらく、筋線維に微小な損傷が起こっている状態では、筋線維の活動そのものが低下するために、糖の取り込み能も一時的に低下するのであろうと考えられます。したがって、Drexel らの研究結果は、あくまでも長期的なトレーニング効果とみなすべきでしょう。

【健康づくりのためのヒント】
これの研究は、健康づくりのためのいくつかのヒントを与えてくれています。まず、糖尿病や循環器の疾病のため、きつい運動ができない人でも、「階段下り」や「坂下り」のように、エネルギー的に「楽な」運動であればできる可能性があります。このことは、オフィスビルで働く方々にも朗報かもしれません。また、健康づくりのためのトレーニングでも、適度のエキセントリック収縮は利用すべきでしょう。ただし、やりすぎて筋痛がおさまらないような状態になると、かえって逆効果となりますので、注意も必要です。



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