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中・長距離走になぜレジスタンストレーニングが必要か
去る11月27日に、「レジスタンストレーニングの変遷と現状」と題したシンポジウムが行われました。演者はシドニー工科大の A. Murphy 博士、東海大の有賀誠司氏と私の3名でしたが、中でも Murphy 博士の「プライオメトリック・エクササイズの進歩と未来への方向性」という発表はたいへん興味深いものでした。プライメトリック・トレーニングは従来、スプリント/ジャンプ系競技のための専門的トレーニングとされてきましたが、彼らのグループは最近の一連の研究から、これが中・長距離走のパフォーマンスを高める効果があることを示しました。そこで今回は、彼らの研究を足がかりにして、持久走パフォーマンスとレジスタンストレーニングの関連について考えてみましょう。

【全身持久力と持久走パフォーマンス】
中・長距離走を含む持久的競技のパフォーマンスには、まず呼吸・循環・代謝機能が深く関わります。これらの機能のうち、比較的容易に測れる指標として、最大酸素摂取量(VO2max)と乳酸閾値(LT)があります。V02maxは呼吸・循環系によって作業筋に酸素を供給することのできる上限値を示します。一方、運動強度を上げていくと、やがて有酸素性代謝のみではエネルギー供給が間に合わず、無酸素性代謝を併用しなければならなくなるために乳酸生成が増加(血中乳酸濃度も増加)し始めますが、丁度このときの運動強度をLTと呼びます。これまで多くの研究が、1500m走からマラソン競技に至るまでの持久走パフォーマンスと、実験室内で測定したVO2maxおよびLTの間に強い相関関係があることを示してきました。

【ランニング効率】
一方、実際の走パフォーマンスには、上記の生理学的要因に加え、走フォームの善し悪しなど、さまざまな要因が関与してきますので、V02max やLTが同じでも、走タイムのよい人、悪い人といった幅が出てきます。こうした付加的な要因のうち、強い影響力をもつものにランニングのエネルギー効率(ランニング効率)があります。ランニング効率は、酸素摂取量当たりの走スピードで定義されます。したがって、VO2max が同じでもランニング効率の良い人ほど持久走パフォーマンスは高くなると考えられます。

【プライオメトリック・トレーニング】
プライオメトリック・トレーニングは、生理学的には筋が活動状態を維持したまま伸張・短縮するように行うトレーニングといえます(伸張-短縮サイクル:SSC)。実際のエクササイズには、自重を利用したジャンプ系のもの(デプスジャンプやバウンディング)から、マシンやメディシンボールなどを利用したSSCトレーニングまで、さまざまなものがあります。いずれの場合にも、伸張性筋収縮により急減速し、切り返して短縮性収縮により急加速するという動作が基本となりますので、瞬発的なパワー発揮のための神経・筋機能の改善に効果的とされています。

【プライオメトリック・トレーニングが中・長距離走パフォーマンスを高める】
Murphyら(2003)は、17名の中・長距離ランナーを対象として、6週間の漸増的プライオメトリック・トレーニングの効果を調べました。その結果、垂直跳びなどのパワー系機能が向上したばかりでなく、3 km 走のタイムが平均で約16秒(距離にして約80m)向上しました。一方、VO2max および LTには変化はありませんでした。しかし、同一の最大下走速度での酸素摂取量は低下しました。これらの結果から、プライオメトリック・トレーニングは、全身持久力に関わる呼吸・循環・代謝機能には効果を及ぼさないものの、ランニング効率を高めることで走パフォーマンスを改善することが示されました。

【効果のメカニズムは?】
プライオメトリック・トレーニングのこうした効果には、少なくとも2つの要因が関与していると思われます。ひとつは神経系のはたらきです。プライオメトリック・トレーニングを行うと、たとえばホッピング動作などでの接地時間が短縮されます。これは、接地の直前に筋活動がよりすばやく、同期されて起こるようになるためと考えられます。2番目は筋の「固さ」です。上記の研究では、トレーニング後に脚筋群の「スティフネス」、すなわち受動的な「固さ」が増大したことも示されました。この受動的「固さ」には、伸張反射などの神経活動も混在している可能性がありますが、これらの2つの要因はいずれも、接地時にアキレス腱などの弾性要素をより強く引き伸ばすように作用します。すると、着地に伴うエネルギーがより効率的に弾性エネルギーとして蓄えられ、次のジャンプに利用されると考えられます。その極端な場合が以前にご紹介した「カンガルーのジンプ」といえるでしょう。

【基礎的トレーニングの重要性】
プライオメトリック・トレーニングは、外観上の負荷に比べはるかに大きな筋力発揮を伴う場合が多く、容易に行えるものではありません。したがって、中・長距離選手の場合にも、基礎的レジスタンストレーニングによって神経・筋機能のポテンシャルを十分に高めた上で、段階的にプライオメトリック・トレーニングへと移行することが、安全性と効果の両面からみて重要と思われます。



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