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大腰筋パラドックス!
私事で恐縮ですが,今年の2月と3月に続けて本を出版しました。いずれも大腰筋をトレーニングすると,即効的に姿勢がよくなり,体脂肪も落ちるという内容です。大腰筋については,専門的な研究テーマというわけではないのですが,ある程度データが集まってきましたので,改めてご紹介したいと思います。

【大腰筋のはたらき】
大腰筋の機能は,「見える筋肉,見えない筋肉」(2001年4月号),「大腰筋の機能とトレーニング」(2002年2月号)でも取り上げましたが,おさらいをしておきましょう。大腰筋は,腰椎に始まり,腸骨に始まる腸骨筋とともに骨盤表面を通り,大腿骨基部内側に終わる筋です。大腰筋と腸骨筋を合わせ腸腰筋とも呼びます。主に次の3つの機能があります:1)股関節を屈曲させる,2)骨盤を前傾させる,3)腰椎を斜め前方に引き下げ脊柱のS字型を維持する。

【パラドックスその1】
ところが,以前から,股関節屈筋である大腰筋(+腸骨筋)は,股関節伸展のときにもはたらくと考えられていて,「腸腰筋パラドックス」と呼ばれてきました。強く脚を後方に蹴る(バックキック),典型的な股関節伸展動作を考えてください。このとき,背中を丸めて行うとうまく脚が上がりません。正しいバックキック動作では,胸を張って腰椎を伸展させ,同時に骨盤を前傾させることで脚をさらに後方に蹴り上げます。したがって,必然的に大腰筋がはたらき,エキセントリックな力発揮をすることになります。このような状況は,スクワットでのハムストリングスのはたらきに似ています。すなわち,大腰筋が腰椎から骨盤を経由した多関節筋であるという特性に基づく当然の機能と考えられます。

【パラドックスその2】
もうひとつパラドックスがあります。それは,「猫背」に関係したことです。出版した本では,猫背の原因は「大腰筋の弱化による骨盤の後傾である」と書いてしまいましたが,実はこれが完全には正しくないことがわかりました。確かに,骨盤の後傾がもとで腰椎がまっすぐになり,胸椎上部から頸椎にかけて急激に前屈してしまう場合がありますが,これは高齢者に多いようです。若い女性を対象に調べてみると,逆に骨盤が前傾しすぎて,腰椎のS字全体が深くなりすぎる場合が多いようです。こうなると内臓が腰椎と骨盤に押し出されるようにして下垂し,下腹部が目立ってせり出してしまいます。ところが,この場合にも,大腰筋のトレーニングをすると,短期間で驚くほどの改善効果があることがわかりました。大腰筋は基本的に骨盤を前傾させるはずなのに,なぜでしょうか?

【腰椎と大腿骨のリンケージ】
おそらくその答えは以下のようなものと考えています。正しく直立した姿勢を真横から見ます。つま先と踵の中点から上に垂線を延ばすと,その線上には,股関節,第2腰椎(へそ直下),肩関節,頭の中心部が位置するはずです。第2腰椎は大腰筋の起始側の中心で,しかも体の重心位置に近いところです。したがって,この位置を体の中心線上に保つことが重要で,このときの骨盤の位置と傾斜角が理想的となります。大腰筋は,腰椎と大腿骨基部を直接結ぶ唯一の筋ですので,腰椎の位置が前方に出過ぎた場合(骨盤は前傾しすぎ),後方に下がった場合(骨盤は後傾)のいずれの場合にも,その位置を股関節の真上に修正するはたらきをもつものと考えられます。

【姿勢への即効的効果の実例】
まだ断片的なデータの寄せ集めですが,姿勢に問題があった25〜36歳の女性11名についての例をご紹介します。「足踏み」,「骨盤引き上げ」,「レッグレイズ」の3種目のエクササイズを1日置きに行ってもらったところ,すべての方が,2週間でほぼ完全に上記の理想的な姿勢になりました。平均の数値でみた場合,最も顕著に変化したのはウエストサイズで,2週間で95.9%に,1ヶ月で93.6%になりました。一方,体重は2週間で97.9%,1ヶ月で96.3%,体脂肪率は2週間で99.1%,1ヶ月で93.3%になりました(いずれも初期値を100%)。このことから,最初の2週間では,体重や体脂肪率はあまり変化することなく,主に姿勢が改善されることにより,見た目にもスタイルが良くなることがわかります。こうした変化が起こると,日常の動作なども改善され,やがて体脂肪そのものが減るという相乗効果をもたらすものと考えられます。

【スポーツ動作との関連】
以前のコラムでは,大腿部を引き上げる動作を中心にお話ししましたが,今回のように考えると,大腰筋はスポーツやトレーニングのさまざまな動作に関連することになりま。例えば,地面を後方に強く蹴る動作,股関節を伸展してジャンプするような動作,重心を安定して沈める動作(ランジ動作)などでも重要といえるでしょう。また,トレーニングでは,正しいスクワットやデッドリフトを行う上でも重要になります。すると,普段スクワットやデッドリフトを行っている方には,特に大腰筋を意識したトレーニングは必要ないということにもなりますが,これもパラドックスのようになってしまいますので,改めてもう少し考えてみることにします。



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